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【根管治療・レーザー治療】右下の歯の深いむし歯の治療(歯髄温存療法:Vital Pulp Therapy編)
2024.03.08
東京都立川市の歯科医院「Inoue Dental Clinic」歯科医師の井上貴史です。
今回は右下の歯の深いむし歯(虫歯)治療(歯髄温存療法【Vital Pulp Therapy】編)の内容を書きたいと思います。
患者さんは右下に物が詰まるということで来院されました。
歯科医院は数年ぶりとのことでした。
痛みは以前はあったが最近はないそうです。
物が詰まったり、冷たいものがしみることはあるそうです。
■手術用顕微鏡(マイクロスコープ)を使用して原因の歯を確認
まずはどの歯が原因か確認していきます。
右下の前から4番目の歯が欠けています。
銀歯の前の歯になります。
歯の色も変色して青黒いです。
冷水痛などの反応はありました。
デンタルX-P写真から歯髄腔(歯の神経がある部分)にまで及ぶむし歯(虫歯)のような透過像が認められました。
この歯の歯髄はまだ生活反応を示しており、歯髄を保存できる可能性が高いを判断しました。
歯髄が炎症を起こしていたり、失活といって正常な反応を示さない場合は根管治療が適応となります。
根管治療はなるべく行わない方が良いです。
根管内は複雑で完全に汚れなどを除去することは非常に難しいです。
再治療も多いと思われます。
患者さんとよく相談し、歯髄温存療法 VPT:Vital Pulp Therapyを行うことになりました。
■歯髄温存療法 VPT:Vital Pulp Therapyとは
歯髄温存療法 VPT:Vital Pulp Therapyとは、歯の神経(歯髄)を保存する処置で予防的根管治療ともいいます。VPTは虫歯が深く神経に近接し、症状がなく、歯髄の正常な生活反応がある場合に行うことができます。
通常はむし歯(虫歯)を除去し歯髄が露出すると根管治療を行い歯髄を除去します。
歯髄温存療法(VPT)は、歯髄を一部除去しMTAセメントで封鎖します。
■MTAセメントとは
MTAとは、Mineral trioxide aggregateの略です。MTAセメントの主成分は、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3)などの無機質酸化物であり、全体の7割を占めています。これに石膏および造影材として酸化ビスマスが添加されています。MTAセメントの発祥であるポルトランドセメントと比べると、不純物の除去、造影剤の添加など歯科用に適切に改変されています。そして、MTAの硬化直後のpHは10と非常に高く、練和3時間後にpH12.5に達します。
ほとんどの細菌はpH9.5で死滅するため、MTAセメントは抗菌成分として歯質内で働きます。MTAセメントのphの上昇は、水酸化カルシウム製剤と同様に一時的に歯髄傷害性に働きますが、その傷口には炎症性の細胞浸潤・消退が起き活発な細胞増殖が起こる結果として「第二象牙質(デンティン・ブリッジ)」が一層生成されます。
デンティンブリッジは、神経を守ってくれる新しい歯質というイメージです。
MTAセメントの特徴としては、
①高い殺菌力
②密封性の高さ
③生体親和性の高さ
④親水性が高い
という特徴がありとても優秀な材料になります。
保険適応外の材料になります。
■神経がなくなると…
Randow先生らのin vivoの実験では、生活歯と失活歯の違和感や痛みが生じるまでの負荷レベルを比較した結果、無髄歯が痛みを感じる負荷レベルは、生活歯の2倍以上であったことが報告されている。
失活歯と生活歯において、疼痛を感じる閾値レベルを比較。根管充填歯は咬合力を反射的に制御する機能が低下し無意識に強い負荷がかかってしまう。
Randow K, Glantz PO:On cantilever loading of vital and non-vital teeth.An experimental clinical study.Acta Odontol Scand,44(5):271-277.
アクセルソン先生らよる長期メインテナンスの報告によると、30年に及ぶメインテナンス中に抜歯に至った歯の原因をみると、半数以上が歯根破折であったとされている。
Axelsson P,Nystrom B ,Lindhe J:The lomg-term effect of a plaque control program on tooth Results after 30 years ofmaintenance. J Clin Periodontol,31(9):749-757,2004
失活歯になると歯を失う可能性が高くなることが示唆されます。
■実際の治療
それでは実際の治療になります。
通常は麻酔をしてなるべく痛みがない状態にしてから治療を進めます。
今回は歯髄が生活反応はきちんとあるか確認したいため、麻酔をしないで進めていきました。
痛みが強く出ない程度に少量削りましたのでご安心下さい。
術前にも患者さんによく説明し同意を得ています。
すぐに反応があったので生活反応があり正常な歯髄の可能性が高いと判断し麻酔を行いました。
歯を削っていくとむし歯が広がっていました。
健康な歯はとても硬いですが、むし歯になった歯は軟化象牙質といってとても柔らかくなってしまいます。
歯の中は変色しむし歯が広がっていました。
歯の上に歯肉が覆い被さっています。
手術用顕微鏡(マイクロスコープ)の倍率を拡大していきます。
歯肉が覆い被さっているとその下がむし歯になっているかもわかりません。
メスやバーというドリルの先など鋭利な器具で歯肉を整えると、出血が多くその後の治療に支障をきたします。
このような時には炭酸ガスレーザーはとても有効になります。
炭酸ガスレーザーは、歯肉を整えるのはもちろん、止血、治癒促進などメリットが多い機材です。
歯肉の下のむし歯などを確認し除去しました。
歯肉を炭酸ガスレーザーで整えた後に特に歯と歯の間のむし歯などを除去しました。
その後ラバーダム防湿を行うために隔壁という補強をしました。
この状態で残りのむし歯を徹底的に除去していきます。
赤く見えているのが歯髄と思われます。
正常な歯髄の色と判断しました。
通常だとこのまま根管治療をして歯髄を除去していきます。
今回は歯髄温存療法(VPT)のため歯髄を必要以上には除去しません。
よく洗浄して止血を確認します。
炎症が強う場合は出血が多く止血ができない場合は,歯髄温存療法(VPT)の適応ではなく根管治療になります。
こちらの画像はMTAセメントを充填したものです。
この後に仮蓋をして術後の経過を観察します。
今回はここまでです。
この歯は次回問題なければセレミック治療になります。
術後に症状が強い場合や生活反応がない場合などは根管治療になる可能性があります。
歯髄温存療法(VPT)+セラミック治療回数:3回(約3ヶ月)
費用:歯髄温存療法(VPT)33,000円
セラミックインレー治療77,000円
リスク・副作用:術後の症状が強い場合は歯髄を保存することが難しいこと、歯肉の違和感など
すべての歯が適応ではありません。
詳しくは担当歯科医師にご相談下さい。
なるべく歯髄を保存できるように精進していきます。
今後ともよろしくお願いします。
井上貴史
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